COLUMN

2024年7月25日

【想いを紡ぐ】〜メモを取るということ〜

メモを通してのやりとりの積み重ねが、圧倒的なエグゼキューションの成功率に繋がる

前回のコラムで、2001年5月にこの仕事を始めて以降、全ての面談に関してメモを残していると述べた。では、メモを残すことで何が生まれるか。今回はそのことについて少し述べたい。

面談の際に話を伺いながらノートにメモを取る。そしてそれを見ながら、整理しつつ会社の情報管理システムにメモを残す。そうすることでお伺いした話自体の整理が進む。そのメモは直接話法の時もあれば、アポイントの調整をしてくれたアシスタントに報告するかのような文調の時もあるし、まさにビジネス報告書的なスタイルの時もある。
企業から求人をお預かりする際にも当然の如くメモを残すわけであるが、それを社内システムに残す際に、少し自分の理解が足りない言葉や概念はWebで調べてその情報も転記する。これは候補者の方との面談でも同じである。
求人に際しては、その企業からいただいた一次情報に当該案件を通じてお会いした方々の面談メモが加わり、それらの情報が重なり合うことで、案件の理解に奥行きや幅、深さが出てくる。平面の2次元に高さ深さが出て3次元となり、そして動き出して4次元となっていくように。

例えば、ある大手製造業のお客様からCHROの求人をご依頼いただいた際に、候補者の方からこんなアドバイスをいただいた。

「求人情報に並ぶ言葉として、ダイバーシティの推進やジョブ型人事制度の導入など、同じようなワードが並んでいたとしても、その企業が求めているものが当該企業における人事戦略の再構築なのか、大枠の戦略は決まっていてそれをきちんとエグゼキューション1することなのかで紹介すべき候補者の方は全然違ってきます。それは候補者の方の職務経歴書でも同じで、戦略を立てることが得意なタイプの方と、それを個別実行に移していくことが得意なタイプの方がいます。しかし、職務経歴書には同じような言葉が並ぶので、入念にそこを読み込みつつ、面談される際に確認するしかないと思います。それはどちらが良いとか悪いという議論では無いんです。その求人に適しているかどうかということです」

また違う方からはこんなアドバイスもいただいた。

「HRBPを導入しようという日系大企業が増えていますが、これからその仕組みを作ろうとする際に、既にその仕組みが出来上がっている企業、例えば外資系企業の方を採用して本当に上手くいくのだろうかと思って見ています。出来上がった仕組みをきちんと回す仕事と、その仕組み自体をこれから作る仕事ではやはり違うので、その求人企業の置かれている状況や局面に適した方を紹介しないと、ワークしないと思います」

また別のタイミングでは、「そもそもCHROの仕事ってどんな仕事ですか。再定義していただけると助かります」と、この仕事で23年目の自分がこんな質問をしてはいけないのではと思いつつも、ある方に投げかけたところ、次のような言葉をいただいた。

「CXOと言われるポジションは、つまるところ自分の責任ある経営資源を会社が目指す方向に、それは最近で言えばパーパスであったり事業の目的であったりするわけですが、それを現実のものとする為に、最大限かつ決して短期目線ではなく中長期の目線でその経営資源を活用するという職責があり、それをCEO、COOと同じ目線で考え、実行していく立場にあると思います。CHROであれば、HR、つまりはヒューマンリソース、人と組織という人的資源においてその役割を担っているという大前提の理解が大切だと思います」

伺ってみれば当然のことなのだが、日々の仕事の中では、CHRO、執行役員人事部長、人事部長、の違いさえも時として曖昧になりがちで、そういう時にこのような言葉をいただけると、ふと立ち止まって、案件に関しての頭の整理が進み、再度その求人自体を俯瞰できたりする。

面談メモには、リテーナー契約における案件の進捗がスタック2したような際に読み返すと新しいサーチ3のアイデアが生まれる、といった副次的な効果も多分にある。
求人情報をお預かりした際に、まずはその情報自体を正しく理解する。その上で自分の経験やアシスタント、同僚からのアドバイスを加味して仮説立てするが、その中からは適切な候補者の方を探しきれない時に、この面談メモがサーチを強力にサポートしてくれることが多々ある。それはメモそのもののこともあれば、メモに目を通してサポートしてくれるアシスタントの、ある時は確信的な、ある時は何気ない一言から、一気に状況が打開されていくようなことが。そしてメモを通してのやりとりの積み重ねが、圧倒的なエグゼキューションの成功率に繋がると確信している。

それくらい、私はこのメモを大切にしている。入社時はリテーナーサービスの立ち上げと言う職責があってチームを持っていたのだが、今は私もいちコンサルタントに戻っている。そんな私に「リテーナーサーチコンサルタントの育成をお願いするとしたら、その際の条件は何ですか?」と聞かれると、いつも同じ答えを返している。
「きちんと人の話を聞けること。そしてそれをきちんとメモに残せること」

自分も年齢を重ね、少し疲れが溜まっていたりすると、今の面談で十分に話を伺えただろうかと強く反省することも時としてあるのだが、それでも、少なくともこの2点は、良い仕事を継続する為には必須だと思っている。

前職の証券や保険、そしてこの世界でも、明らかにプレゼンテーションやネゴシエーションの能力において、とてもじゃないが敵わないなと思う、圧倒的に優れたメンバーとともに仕事を重ねてきた中で、まだ自分が一線で走れる理由はここにあると確信している。

1エグゼキューション:文中においては、「一連のプロセスを最後まで管理・実行すること」の意味で使用。

2スタック:文中においては、「滞る」の意味で使用。

3サーチ:文中においては、「要件に見合う人材を探すこと」の意味で使用。

執筆者

中村 一正

中村 一正

Kazumasa Nakamura

野村證券で中堅企業営業及び社員研修の企画運営に従事後、外資系生保会社に転じ、組織拡大と生産性向上に尽力。退職時は同社最大の直販部隊のヘッド。
2001年以降、日系大手サーチファームである縄文アソシエイツ、2008年外資ビッグ5の一角、ハイドリック&ストラグルズ、2010年5月よりリクルートエグゼクティブエージェントと一貫してエグゼクティブサーチ業界。
B2C領域を中心に業種的にも、また企業ステージとしても日本を代表する著名大企業から、オーナー系成長企業、未公開新興企業等々、広範囲に対応。

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