COLUMN

2024年9月11日

【想いを紡ぐ】〜言葉と本質〜

真の目的は何か。真の課題は何か。壊れた検索エンジンにはなるなかれ。

企業からの依頼に正しく応える為に、という話でよく使う事例がある。
まだCIOなる言葉が一般的になる前のこと。後輩が担当していたある上場企業のオーナー社長から、彼宛に早朝一番電話があった。「急ぎCIOを探してほしい」とのこと。それを受けて後輩が不安げな顔で、同行してもらえませんか、と相談してきた。そのオーナーには自分も以前から面識を頂いていたので、その日の午後、先方を訪ねると、「急成長が続く中で、会社の成長に組織がついていっていない為に、売上の成長以上にコストが上昇していて、もっと効率的にオペレーションを回せないかと思っていたら、どうもCIOなる人を入れると極めて生産性が高くなるらしいと聞いたので、是非、そういう方をスカウトしてほしい」とのご依頼であった。しかしオペレーションがグチャグチャなままではシステムを入れても全く効率は良くならないわけで、かと言ってそう返すと元も子もないので、少しだけ現状と社長の問題意識と目的を整理、確認させていただき、持ち帰った。後輩と帰社後に再確認し、結果的にご紹介したのは、所謂、情報システム部門の責任者の経験がある方ではなく、業務オペレーションの整理が得意で、かつ情報システムもわかる方であった。数年後に当該企業の他の役員の方とお会いした際に、その紹介させていただいた候補者の方の活躍ぶりを伺ってホッとしたことを今でも鮮明に思い出す。

この手の話はこの仕事をしていると枚挙にいとまがなく、何も急成長中の企業に限るわけでもない。例えばコロナ禍前に、CDOもバズワードになった。DがDX(デジタルトランスフォーメーション)なのか、データなのかというのがまずは最初の確認事項。前者のDXだとした時に、CIOとの役割、期待値は整理されているのか、という大前提のところが怪しい依頼も多かったと記憶している。それが悪いというわけではなく、依頼される側は思いが走っていることが多々あるので、その依頼を受ける私達は、冷静に、問題意識と目的を確認すべきなのである。後者のデータであっても同じ。データ活用の領域で著名な、ある大手コンサルティングファームの方からは、「活用する以前の問題として、データそのものが全く整理されていない会社が多くて、まずはそこからとなると、私の出番はその整理が終わった後になるんです」と伺った。そうした場合に、同じような状況の企業からの依頼にそのまま応えて、データ分析及び活用で実績を上げている方をCDOとして紹介して大丈夫なのだろうかという話にもなる。企業からの依頼を言葉通りに受け取り、課題の本質を捉えきらずに候補者の方を紹介してしまうようなことがあってはならない。

その最たるものが、2015年のコーポレートガバナンスコード制定以降の社外取締役、監査役の招聘ではないかという思いが、最近、日増しに強くなっている。女性を入れないといけない、社外を過半数にしなければいけない等々の形式的基準を、兎に角達成することに追われる日々から、もっと実効性のある選考にしなければいけないと多くの企業が気付き、そういう意味ではここからは積極的な入れ替えが始まるのではと推測している。そもそも、コーポレートガバナンスコードという題字の下に、「会社の持続的な成長と中長期的な企業価値向上のために」と記載されていることを覚えていらっしゃいますか、という問いかけに、そうでしたね、と返されることが多々ある。
また、執行役員は兎も角、商法上の取締役の数は全体としては減らす方向にあり、それが7名とか9名にまで絞った場合に、取締役会のメンバーである限りは、やはりその大前提の議論ができる方でないといけないという声が多い。それはその会社が求めるものが、監督機能なのか、アドバイザー機能なのかによって違いはあるものの。企業経営経験のある女性はまだまだ絶対数が足りないという現実もあるし、監督の立場ではあっても、企業経営の議論に参加できる程の経験豊富な弁護士や会計士の方も少ないという現実もある。しかし、だからと言って、本来的な目的に対して妥協すべきではないと、今また多くの企業が動き始めているその大きな波動を日々感じている。

女性社外取締役を入れること、社外取締役を過半数にすること。これは本来の目的を達成するための方法論としての外的形式基準であって、そのこと自体が目的になってしまうような錯覚に振り回される日々が長かったけれど、「冷静に考えてみると本質は違うところにあった」というのは、本件に限らず、いつの時代にもあることだ。古くはCRMであるとか、数年前だとグローバル人事であるとか、その時代時代の流行り言葉の中で、決してそれを揶揄したり、斜に構えて、そういう依頼は受けないといったりする話ではない。依頼されている企業にとっての真の課題は何か、そのポジションの方を外部から迎える真の目的は何か、そして迎えようとされている企業の今現在の状況は如何なるものか。それを冷静に、けれど熱い想いを持って対応していくことが求められている。壊れた検索エンジンにはなるなかれ、である。自省を込めて。

執筆者

中村 一正

中村 一正

Kazumasa Nakamura

野村證券で中堅企業営業及び社員研修の企画運営に従事後、外資系生保会社に転じ、組織拡大と生産性向上に尽力。退職時は同社最大の直販部隊のヘッド。
2001年以降、日系大手サーチファームである縄文アソシエイツ、2008年外資ビッグ5の一角、ハイドリック&ストラグルズ、2010年5月よりリクルートエグゼクティブエージェントと一貫してエグゼクティブサーチ業界。
B2C領域を中心に業種的にも、また企業ステージとしても日本を代表する著名大企業から、オーナー系成長企業、未公開新興企業等々、広範囲に対応。

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