COLUMN

2025年3月21日

【リテーナーサーチ −機会と可能性の最大化−】

第5回 リテーナーサーチの醍醐味 「代表取締役社長」の決定まで

藤川 知巳Tomomi Fujikawa

「本当に、会社って人だなぁ」
この仕事をしていると、そう思うことがよくある。

「経営者」という一人の「ヒト」によって企業・組織が変わっていく。リテーナーサーチの仕事を通じて、私たちが企業の経営課題に正面から向き合う機会をいただく中で、企業・組織の未来が変わっていく、もしくはその兆しが見える瞬間に立ち会えることがある。
今回は、このような企業変革のリーダーである「代表取締役社長ポジション」の案件とリテーナーサーチについてお伝えしたい。

代表取締役社長案件(以下、社長案件)は、その案件特有の事情・性質からリテーナーサーチが持つ機密性の担保・サーチ範囲の広さといった特性と相性が良いと考える。

具体的に、それはどのように相性が良いのか、少し触れておきたい。
まず第一に、社長案件は情報管理の徹底が最重要になる。案件の発注依頼元は、株主(親会社・事業会社・創業家等)や取締役会指名委員会といった組織(以下、クライアント)の場合がある。クライアント内、弊社内、そして対象となる候補者、各々他言無用の厳しい情報管理が求められる。さらに、複数エージェントに案件依頼をすることによる無用な情報拡散を防ぐため、基本的に、クライアントは一社厳選にて案件を依頼される。それほど、情報管理が徹底されており、ご依頼いただいた際の責任は重く、緊張感も高い。弊社のリテーナーサーチでは、初めにクライアントと経営課題を解決できる人材要件のすり合わせを行い、その要件に合う方を探していく。特定の対象者の中から、クライアントニーズを確認しつつお引き合わせを行うため、情報開示の範囲はごく限定的で、機密性においても厳重に管理されている。

第二に、社長案件は当然のことながら決定プロセスの難易度が高い。この難しさに、私たちはリテーナーサーチでどのように応えていっているのか。それは、クライアントが抱える経営課題を解決できる人材像の【要件定義】に時間をかけ、さらに、その人材像にもっとも合う方を既存のデータベースからだけではなく、広く世界中から、これも時間をかけて探していくことで応えていく。


社長ポジションサーチの初期プロセスでは、大きく2つのケースがある。

ケース1.人材要件が明確である
〇〇業界の社長経験者/北米事業経験のある○○業界の社長経験者、のように求める人材像がある程度明確である場合

ケース2.人材要件が不明確である
経営課題と次期社長に求めたい事は明確だが、どのような人材がそのミッションを遂行できるか分からないので相談に乗ってほしいという場合

当社にご相談いただく社長案件は、圧倒的にケース2(人材要件が不明確)が多い。難易度の高い経営課題・ミッションを成し遂げられる経営人材にはどのような要件が必要なのだろうか?またそのような経営人材はどこにいるのだろうか?といった不確定要素が多く抽象度の高いご相談が多い。

特に私が担当する製造業は、IT・金融・消費財といった業界よりも経営陣の流動の歴史がまだまだ浅く、始まったばかりとも言える。経営課題に向き合い、ミッションを担える経営人材を外部招聘するというケースにおいて、事例も少なく、それゆえに悩みも深くなる。

例えば、電子部品メーカーの社長ポジションの依頼を受けた際。
電子部品と言っても、取り扱う商品は、コネクタ、コンデンサ、半導体、電源、センサー、モーター等幅広く、企業が向き合う顧客も自動車向け、産業機械向けと実に様々である。
さらに各企業の経営状態、規模、歴史も多種多様である。
要件定義を進める際は、いきなり求める人材要件の話に入らず、今回の採用目的は何か、なぜ社長を外部招聘しようと考えているのか、前(あるいは現在)の経営者はどのような方でどのようなパフォーマンスや成果を残されているか、現在の経営状況はどうなっているか、社内からの経営幹部への登用基準はどうなっているかなど“背景と現状”をお伺いしていく。いずれも経営課題につながる機密情報なので、すべてを開示いただくことは難しい場合もあるが、その都度、質問の意図と採用成功に導くために必要な整理事項であることを伝えていく。このようなプロセスの中で、私たちもクライアントと共に悩みながら細かいすり合わせを進める。この時に、相互認識・相互理解ができている事項と、お互いの認識・理解が曖昧な事項とをしっかりと区別しておくことが、後のプロセスをスムーズに進めるために非常に重要になってくる。
収集した情報から抽出した複数の要素を、時には因数分解、時には掛け合わせて、日頃私たちがお会いしている候補者も頭に思い浮かべながら、クライアントの経営課題を解決しうる経営人材の解像度を上げていく。
人材要件定義は完璧に定義したプランではなく、プランA・プランBのように複数の選択肢を残しながらご紹介を進めていく。複数の選択肢の中から、最終的にクライアントの意思で決断される。その選択と決断のプロセス自体がクライアントの納得感にもつながっていく。
このように、社長ポジションのご相談をいただいた際は、人材要件を定め、それらの要件を満たす候補者を探すまでのブレインストーミング、ディスカッション、情報収集に如何に”有益に“時間をかけられるかが、成功の肝となる。時間を“リテイン”するリテーナーサーチたる所以である。
その後は、クライアントと相談の上複数の候補者にアプローチをしていくが、このアプローチに際しては、弊社のリサーチャーの存在も非常に大きい。候補者へどのようにアプローチをして貴重なご面談の機会をいただいているかについて、2025年3月4日付のコラムで弊社リサーチャーの仕事として紹介しているので、併せてご一読いただけると嬉しい。
アプローチをした候補者の方々と、クライアントとのインタビューが実施される。特に極秘情報が含まれる場合を除いて、多くのインタビューに私も同席させいただく。社長ポジションのインタビュー内容は、一般的な経営幹部採用の場合とは大きく異なる。
まずはクライアントから、社長ポジション募集の背景(理由)、求められるミッション(当該企業の課題)、業績、新社長への期待といった概要が説明される。
候補者からは、求められるミッションに対してどのように成果を出すか、自身の経験や考え方に沿って説明をし、時には当該企業の課題に対して自分なりの見立てと中長期的な展望を披露する。クライアントと候補者との間で白熱した議論になる場合もあり、いわゆる採用面談とは異なる様相を呈することもしばしばである。
話題は、
・構造改革の導入、手法(人員削減、工場撤退など)
・販路拡大の手法
・生産性改善の手法
・指標とすべき経営指標についての議論
・経営の見える化
・人心掌握の手法
・買収戦略
等々に及び、同席している私にとっては、経営トップの仕事を間近で見ることができ、後学の機会となることこの上ない。
このような高度なインタビューを数度重ね、お互いのイメージをクリアにしていき、ミッションや期待役割に関して双方合意ができれば、正式に社長ポジションで決定となる。
社長ポジションの決定は、当該企業の現在と未来のみならず、候補者個人の人生にも大きな変化と影響を与える重要な意思決定である。このひとつの意思決定が与える影響範囲は、時に、業界全体、社会全体へと及ぶこともあり、それだけにこの仕事の責任は重く、また同時に大変意義深い。

社長ポジションの決定後も、当該企業と候補者個人に対して、その未来への期待感と緊張感が余韻のように続く。IRやニュースリリースでご就任を確認し、ご就任後も否応無しに新社長の具体的取り組みやご様子など、周囲の声が舞い込んでくる。社長ポジションの決定から数ヶ月、数年を経て、私たちの仕事の仮説や想定を答え合わせのように確認していく。
決定したらそれで終わり、ではない。企業、候補者の皆様の未来を見届けるまでのこのプロセスこそが、私たちの仕事の醍醐味かもしれない。

「経営者」という一人の「ヒト」の発信によって企業・組織が大きく変わっていく。「本当に、会社って人だなぁ」と冒頭で述べたことをまた思いながら、クライアントと候補者のご縁が、企業の経営課題の解決とさらなる発展、候補者の素晴らしいキャリアステージへの展開につながることをとても嬉しく思う。微力ではあるが、リテーナーサーチを通じて、そのお手伝いをできることに喜びと誇りを感じている。


執筆者

藤川 知巳

藤川 知巳

Tomomi Fujikawa

【 略 歴 】
証券会社勤務を経て、人材紹介コンサルタント経験24年(内、エグゼクティブ15年)
1997年〜2008年:大手人材紹介会社にて、ヘルスケア・外資系金融・エグゼクティブ全般を担当
2008年以降、リクルートエグゼクティブエージェントにて、製造業全般を担当。 上場企業の取締役、事業部長、CXO、海外現地法人代表、社外取締役と一通りの領域に実績あり。
加えて、関西地域のネットワークも有する。
【得意領域】
化学・素材・電子部品・エネルギー業界
売上1兆円を超える超大手から100億円規模の上場企業、オーナー系中小企業いずれも実績豊富
【 学 歴 】
1996年3月 立命館大学修士課程 国際関係研究科卒業

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