report

オープンイノベーションを実現させるための
経営者の視点
後編:オープンイノベーションに経営者の積極的な関与が求められる理由

2019年4月15日

6.リスクを軽減させる情報開示方法とは?

自動車の内装部品メーカーである中国企業の「ヤンフェン・オートモーティブ・インテリアズ」は、自動車の自動運転技術の実現を見据えた次世代の音響システムを提案しています。
このシステムは、車内にいる複数のパッセンジャーに別々の音声を届ける技術を使って、例えば同じ車内にいる大人にはニュース音声を、子供にはアニメの音声を同時に伝えるということを可能にするもの。採用する技術はイスラエルのベンチャーのものです。このようなパートナーシップの実現においては「ナインシグマ」などのオープンイノベーションのマッチングを行う仲介会社が重要な役割を果たします。
仲介会社を活用するメリットについて、米山教授は「仲介会社を活用すれば、社名を隠して、求めている技術を広く集めることができます。つまり情報開示のリスクを軽減することが可能なのです。欧米ではこのような仲介会社が非常に大きな役割を果たしていますが、日本にも同様の仲介会社は存在するので、活用しない手はないでしょう」と説明します。
仲介会社を活用すること━━これが2つ目の課題である「適切な情報開示」を実現させる方法の1つですが、併せて、特許権など自社の知財管理をしっかり行っておくことが重要なことは言うまでもありません。
また、情報開示がうまくできればできるほど、自社にもたらされるフィードバック情報の数は増えますが、集まる情報や技術はまさに玉石混交といったところ。そこで「そうした情報を処理・吸収する能力を持つことや、中堅・中小企業の場合には公的試験研究所の助けを借りて、それらの技術や情報をきちんと評価することも、オープンイノベーションを成功させるコツ」(米山教授)です。
3つ目の課題に挙げた「社内のオープン化」は、部門間の連携による情報の共有・可視化を実現するということですが、そのためには「まず社内の意識を変える必要がある」と米山教授は指摘します。
例えば、米国の食品メーカー「モンデリーズ」は、オープンイノベーションを社内に根付かせる取り組みを最初に時間をかけて行うことで、「自前主義」からの脱却に成功しています(「先端企業の取り組み 4.モンデリーズ:ささやかな報酬とパワー・クエスチョン」https://ninesigma.co.jp/news/column-170807参照)。
同社が実際に行ったのが「パワー・クエスチョン」という取り組み。企画の提案者に対し、「その企画を実現させるための技術課題を解決できる人が社外にいるか?」「(社外に解決できる人がいる場合には)その人の持つナレッジへのアクセスをトライしたのか?」という質問を上司が必ず投げかけるというものでした。この取り組みはオープンイノベーションに対する意識を高めると共に、提案前に社外にリサーチすることを習慣づけ、思考だけでなく行動も変えたことに大きな意義があります。
また、外部の技術を活用するということは、相対的に内部技術の評価を下げることになるので、普通に考えれば「やりたくない」という意識が働くもの。そこで外部の技術を利用して一定の成果を出した人を評価する非公式の報酬制度も設立。非公式にしたのは賃金体系を変更せず、すぐに実践できるようにした工夫なのだということです。これらの取り組みはいずれも実施しやすいため、これからオープンイノベーションを進めたいという企業は参考にしてみてもよいでしょう。

7.ベンチャーやスタートアップ企業との連携を強化するために

4つ目の課題である「ベンチャーやスタートアップ企業との連携強化」ですが、それを実現するためにCVCに取り組む企業が少なくないものの、成功事例がそれほど多くないことは、前編でも説明した通りです。では、どうすれば、CVCを成功させることができるのでしょうか?
米山教授が考えるCVC成功のポイントは次の3つです。
1.まずは経験豊富なVC(ベンチャーキャピタル)と連携してCVCを運用し、ノウハウを得ること
2.ベンチャーやスタートアップ企業との“1対1”のパートナーシップにこだわらず、ベンチャーフォーラムなどに参加して、プレゼンスを高め、複数のベンチャーやスタートアップ企業との信頼関係やネットワークを作ること
3.独占的な契約だとベンチャーやスタートアップ企業は敬遠しがちなため、投資の段階から“集団対集団”のパートナーシップを築くこと
いずれにせよベンチャーやスタートアップ企業側が、相手企業に求めているのは資金だけではありません。ビジネスに役立つ知識や情報の提供、顧客や販路の紹介など、彼らが求めているものを早期から提供できるかどうかが、有効なパートナーシップを構築する鍵になると言えそうです。

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